Bostonの名曲「More Than A Feeling」に見るラウドネス(音圧)競争の現実

「ラウドネス競争」という記事がありました。ラウドネスというのは、聴覚上の音の大きさのこと。「音圧」という言い方をする人もいます。記事の「ラウドネス競争」とは、デジタル時代に突入し、圧縮音源の普及や聴取スタイルの変化に押されるように、市場に流通する音楽の音圧が年々高くなっている、というものです。この記事では、全体的に音圧が上がりダイナミックレンジ(Dレンジ、大きい音と小さい音の差分)が狭くくなっているとしています。
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確かに、最近のポピュラー系音楽は、“素”の状態でも高い音圧、特に低音をブーストした、ブーミーなミックスになっているものが多くあります。リスナーがそういう音を求めた結果としての、マーケティング上の戦略なのか、理由はわかりませんが、今は「音圧を稼いだ」音づくりが主流です。

ただ、下記Bostonの例で後述するように、ポピュラーミュージックの場合、その楽曲を聴いたときの瞬間風速的な第一印象は、音圧が高い方が、良い、というのは一般的には言えます。その証拠に、CDショップなどの店頭試聴機は、どれも「“超”高音圧」「低音ブースト」「“超”ドンシャリ」で聴けるよう、ある意味、イビツなチューニングが施されています。だから、試聴機では、音楽の内容は試聴できても、CDの音質は、まったくあてにはなりませんよね。それに、長時間聴いているとヘトへトに疲れてしまいます。

とはいえ、迫力のある音が出てくるわけで、短時間の試聴においては、マーケティング的にあのような音が効果的なのでしょう。ということは、「音圧を稼ぐ」背景には、その方が売れる、からとも言えるわけです。

この記事内では、Justin TimberlakeやMichael Jacksonの例などを出して、「意外な結果」として、必ずしも新しい音楽がなんでもかんでも音圧が高い=Dレンジが狭いとは限らない点にも言及していますが、とはいえ、以下のサイトを見る限りでは、統計的に見ても年々Dレンジが狭くなっており「ラウドネス競争」は存在するようです。

DR Database

「ラウドネス競争」を体現できるCDアルバムが手元にあります。70年代アメリカンロックの名作、Bostonの「BOSTON(邦題「幻想飛行」」および「Don’t Look Back」の各2枚です。一方は、それぞれ80年代に発売されたもので、アナログLPしかなかったオリジナルのマスターテープをCD向けにマスタリングする際、大きく手を加えていないように思われます。
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もう一方は、2006年に発売された、Re-Mastering版の同一タイトルのアルバムです。この2組を聞き比べてみると、「ラウドネス戦争」の意味するところが手に取るようにわかるのです。2006年版は、これが同一アルバムかと思う程に音の厚みが増しています。

簡単に言うと、音圧が上がっているわけです。低音がブーストされ、チョッと聴きした限りは、立体感のあるリッチで芳醇なサウンドになっており、どちらかを選べと言われたら、店頭試聴機の論理で、即座に2006年版を手に取ると思います。ただ、アルバム1枚を通して聴いた場合はどうでしょうか。2006年版は、ちょっとばかり疲れるというか、続けて別の音楽を聴こうという気が失せるというか、そんな感じです。

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オリジナル版の方は、比較論で言うと、全体的にフラットで凹凸感は薄れてはいるものの、70年代の音、という感じで、リラックスモードでとっても安心して聴けたりします。2006年Re-Mastering版では、トム・ショルツ自身がマスタリングに携わっているので、今の(といっても7年前ですが…)彼にとっての理想に近い音がこの結果なのでしょう。それにしても、マスタリングだけでここまで音のイメージが変わるのですから、すごいものです。

以下のキャプチャは、TT Dynamic Range Meterというフリーのソフトウェアで計測した、上記2枚のアルバムから「Peace Of Mind」という曲のDレンジとRMSの違いです。確かに、数値的に見ても2006年版の方がレンジが狭く、RMS(Root Mean Square、音量の平均値のようなもの)の値が大きくなっているのがわかります。RMSは、マイナス表示されゼロに近いほど音圧が高くなります。
80年代のオリジナルに近い版
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2006年Re-Mastering版
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で、私的には、結局、iPhoneに入れているのは、2006年版だったりします。イヤホンでの聴取の場合、長時間聴くことは希で、その瞬間を楽しみたい、という思いがあるので、やはり立体感に富んでリッチテイストで高音圧のRe-Mastering版が音楽をエンジョイできますからね。まあ、私の耳も高音圧に慣らされてしまったのかもしれません。ちなみに、iPhone5付属の「Apple EarPods with Remote and Mic」は、“素”の状態でも低音がブーストされ気味なので、これで2006年版を聴いているとちょっと低い方出過ぎ!という感じはあります。

ただ、ここ2〜3年の傾向として、海外の音楽は音圧が下がり気味で、フラットになっているという報告もちらほら耳にします。私の場合、それを論ずるほど色々な音楽を聴き込んでいないので、よくわかりませんが、この音圧問題は、今後も注視(聴)していきたいと思います。

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