白のストラトキャスター(Stratocaster)は狂気と破壊の象徴

ロック少年だった僕は、中学、高校と英国のロックばかりを聴いていた。

当時、NHKで「ヤングミュージックショー」という海外のロックバンドのライブ映像を流す番組をやっていたのだが、そこで初めて見たディープ・パープルのステージはとにかくかっこよかった。

その時、ギタリストのリッチー・ブラックモアが弾いていたのがフェンダーの白いストラトキャスター(Stratocaster、略してストラト)だった。それが、僕とストラトとの出会いだ。【文末に訂正があります】
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ギターを弾き始めたばかりの僕は、当然のことながらストラトが欲しいと思った。色はやっぱり白だ。

でも、当時の値段で20万円弱の高級輸入エレキギターを、1中学生が買えるわけがない。大人になった今だって、そう簡単には買えない。

結局僕は、親戚のお兄さんがエレキブームの頃に使っていた国産のお古のギター(Aria Pro IIというブランドでした)を借りてせっせと練習に励むことになる。

その当時、多くの大人達がロックに対して抱いていたイメージは、退廃、破壊、セックス、ドラッグといった言葉を連想させるものだったように思う。つまり、反社会的にシンボライズされた音楽であり、普通の人から見れば、ロックバンドは、不良というカテゴリーに入れるべきものだったのだ。

ご多分にもれず僕も校則に違反して髪を長くのばし、大音響でギターを弾いていた。だからといって、不良だったわけではなく、退廃、破壊、セックス、ドラッグとは無縁な、平和でほのぼのとした純真無垢な高校生活を送っていた。

ただ、当時のロック少年の多くがそうだったように、ロックという音楽を聴いたり弾いたりする楽しみ以外に、反社会的な音楽としてのロックをやっている自分に酔っていた部分もあったことは確かだ。

今の若い人がこういう感情を持っているのかどうかは、わからないけれど、当時の十代は、多かれ少なかれ、反社会的な状況に自分の身を投じることを一種のファッション(自己表現といってもいい)としてとらえていた節がある。

ある友人は成田闘争に参加し火炎瓶作りに精を出し、ある友人は暴走族に入って週末の夜になるとスピードに酔いしれていた。

当時のロックが”破壊”というイメージと結びつけられていた最大の理由に、ミュージシャンがステージ上で機材を壊すというものがある。

リッチー、ジミヘン、フーといった面々が、最後の曲も終わろうかというクライマックスにさしかかると、床にギターをたたきつけたり、アンプをひきずり倒したりと、まともな社会人が見たら「なにもそこまでしなくても……」と思うようなことをやっていた。

観客は、それに触発されてよりいっそうの興奮に身を投じることになる。ただ、僕にはそういったステージを見る機会がなかなか訪れなかった。

それでも、そういう映像を見たり、そういうことをすると聞いただけで、青春の血を煮えたぎらせて、熱い情念のほとばしりを覚えたものだった。青いなあ.……。
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しかし、18歳の12月、リッチー・ブラックモアズ・レインボーの公演でついにギターぶっ壊しの瞬間を見ることになる。アンコールの2曲目になるとリッチーは、白いストラトを床にたたきつけて壊してしまったのだ。建て替え前の東京体育館でのことだ。

あのときばかりは、イスの上に立ち上がって腕もちぎれんばかりに拳を振っていた記憶がある。リッチーは、やっぱり期待を裏切らなかったという感謝の念と、高価なギターを平気で壊した「やっぱ、ミュージシャンってお金持ちなのね」というあこがれの気持ちで、心の中を幸せな気持ちでいっぱいにして帰路についた。

実は、この話には、後日談がある。僕はリッチーに裏切られた気持ちになってしまうのだ。

それから1カ月程して、レインボーの公演の模様が『ミュージックライフ』という音楽雑誌でリポートされていたのだが、そこには、有名なロック評論家が冷めた論調で、「リッチーはアンコールになると日本製の安いギターに持ち替えて、お約束どおり破壊した」といった文章が書かれていた。

その文章を読んだ瞬間に僕はすべてを悟ってしまったような気になった。
そうかあれは、単なるショーだったんだ、と。

それまで、無意識ながらもギターぶっ壊しが、ミュージシャンと観客が一体となってクライマックスに達した瞬間に行なわれる一種の神聖な儀式のようなものと考えていただけに、ひどくガッカリしたのを覚えている。

そして、その瞬間から僕はロックに対して大人になったような気がした。18歳の冬の出来事だ。

その後、紆余曲折があって、ギターから離れていた僕がオヤジバンドを始めた。はじめのうちはバンドの練習に、古い日本製のストラトを使っていたのだが、熱い夏のある日ふと衝動的に入った渋谷の輸入楽器店で、白いフェンダー社製ストラトを買ってしまった。値段は中学生当時と同じ位の20万円弱。
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出会いから30年以上経った今も白いストラトは、僕にとって特別なギターだ。

【このコラムは以前、ブログで公開したものを加筆改筆しました】

【訂正:ヤングミュージックショーでリッチーが弾いていたのは黒のストラトとギブソンES335でした。記憶違いがあったようです。ワイト島だか、ウッドストックのジミヘンと記憶が混乱しているのかなあ…】

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